FEATURE

印象派フェスティバルが開催中の
ノルマンディーで3つの美術館を巡る

Vol.4 ー フランス「印象派を巡る旅」にあなたも出かけてみませんか?(全4回)

アート&旅

デイヴィッド・ホックニー《ジヴェルニー by DH》2023年
ルーアン美術館にて開催中の「デイヴィッド・ホックニー・ノルマンディズム」展(2024年3月22日~9月22日)に出展中の作品
David Hockney 
デイヴィッド・ホックニー《ジヴェルニー by DH》2023年
ルーアン美術館にて開催中の「デイヴィッド・ホックニー・ノルマンディズム」展(2024年3月22日~9月22日)に出展中の作品
David Hockney "Giverny by DH" 2023 Acrylic on canvas © David Hockney Photo Credit: Jonathan Wilkinson

アート&旅 一覧に戻るFEATURE一覧に戻る

フランス「印象派を巡る旅」にあなたも出かけてみませんか?(全4回)
Vol.1 Vol.2  Vol.3 Vol.4

1874年、印象派誕生のきっかけとなった歴史的なグループ展(のちに「第1回印象派展」と称される)が、モネ、ルノワール、ドガ、モリゾ、ピサロ、セザンヌら、当時はまだ無名だった総勢30名ともいわれる画家らによって、パリのカピュシーヌ大通り35番地で開催された(詳しくはVol.1)。そして印象派150周年を迎えた今年、印象派に縁のある、首都パリを含むイル・ド・フランス地方と、パリの北西に位置するノルマンディー地方にて、3月末から9月までの6ヶ月間に渡り、150以上ものアートイベントが開催されている。

全4話の最後となる今回は、ノルマンディー地方の印象派の作品を所蔵している3つの美術館をご紹介したい。パリからも比較的近いノルマンディー地方を、ぜひこの記念すべき年に訪れてみてほしい。

ノルマンディー地方を旅する際には、前回ご紹介の記事「印象派の創始者、モネの画業と軌跡を辿る、パリとノルマンディーの旅」【Vol.3】 もぜひ合わせて参照いただきたい。

印象派150周年記念、フランス「印象派を巡る旅」連載企画プレゼントキャンペーン!実施中
印象派150周年記念、フランス「印象派を巡る旅」
連載企画プレゼントキャンペーン!実施中

「印象派150周年」記念トートバック・布製ポーチ・パスポートカバーの3点をセットでプレゼント。
ご応募方法・詳細はこちらから

「ノルマンディー印象派フェスティバル」が開催中。ノルマンディー地方の3つの街、ジヴェルニー、ルーアン、ル・アーヴルへ

ルーアン美術館 館内
Musée des Beaux Arts de Rouen, impressionnisme © Marie-Anaïs Thierry	Crédit photo ; Marie-Anaïs Thierry
ノルマンディー地方の都市ルーアンにある、1801年に開館した美術館。フランス国内第2位の印象派コレクションを誇る美術館。
ルーアン美術館 館内
Musée des Beaux Arts de Rouen, impressionnisme © Marie-Anaïs Thierry Crédit photo ; Marie-Anaïs Thierry
ノルマンディー地方の都市ルーアンにある、1801年に開館した美術館。フランス国内第2位の印象派コレクションを誇る美術館。

フランスで最も多くの印象派の作品を所蔵しているパリのオルセー美術館の他、オランジュリー美術館、マルモッタン・モネ美術館など、パリの主要な美術館で印象派の作品に触れた機会がある方は多いかもしれない。しかしノルマンディー地方もまた、印象派をより深く知ることのできる重要な美術館があると同時に、印象派の美術史上においても重要な地域である。

ノルマンディー地方特有の刻々と移り変わる光や美しい景色は、戸外制作を重要視した数々の印象派の画家たちにインスピレーションをもたらしてきた。また、前話【Vol.3】でご紹介の通り、印象派の創始者といわれるモネが幼少期を過ごしたのが、ノルマンディー地方の港町ル・アーヴルであり、晩年を過ごした家が同じくノルマンディー地方のジヴェルニーにある。

こうした歴史を踏まえ、ノルマンディー地方では3~4年に一度「ノルマンディー印象派フェスティバル」が開催されており、2024年の今年もノルマンディー地方全土で150もの展覧会やイベントが催されている。

今回はジヴェルニー、ルーアン、ル・アーヴルの3つの街にある印象派の作品を鑑賞できる美術館を巡りつつ、各美術館が「ノルマンディー印象派フェスティバル」に向けて用意した特別な展示もご紹介したい。

※「ノルマンディー印象派フェスティバル(2024年3月22日~9月22日)」の開催イベント情報は、フランス観光開発機構(Atout France)の公式サイトのイベントページ でも確認できる。

「クロード・モネの家と庭」の近くにある、ジヴェルニー印象派美術館

クロード・モネ《レ・プティット・ダル》1884年
Claude Monet (1840-1926) Les Petites Dalles, 1884 Low Tide at Les Petites-Dalles, 1884
Potsdam, Museum Barberini, Hasso Plattner Collection, MB-Mon-16 © Hasso Plattner Collection
ジヴェルニー印象派美術館で開催されている「印象派と海(L’Impressionnisme et la mer)」展での展示作品より
クロード・モネ《レ・プティット・ダル》1884年
Claude Monet (1840-1926) Les Petites Dalles, 1884 Low Tide at Les Petites-Dalles, 1884
Potsdam, Museum Barberini, Hasso Plattner Collection, MB-Mon-16 © Hasso Plattner Collection
ジヴェルニー印象派美術館で開催されている「印象派と海(L’Impressionnisme et la mer)」展での展示作品より

2009年にオープンしたジヴェルニー印象派美術館は、印象派の歴史に焦点をあてた展示を行っている美術館だ。前話【Vol.3】でご紹介した、「クロード・モネの家と庭」の近くにある。ジヴェルニーといえば、モネが人生後半の40年以上の歳月を過ごした重要な地として知られている。

そんなモネの名前を冠した「クロード・モネ通り」にあるジヴェルニー印象派美術館では、毎年2〜3回ほど企画展が行われており、2024年6月30日までは「ノルマンディー印象派フェスティバル」の一環として海がテーマの展覧会、「印象派と海(L’Impressionnisme et la mer)」展が開催されている。

ギュスターヴ・クールベ《波》1870年頃
Gustave Courbet (1819-1877) La Vague, vers 1870
Orléans, musée des Beaux-Arts, 314 © 2023 Musée des Beaux-Arts, Orléans
ジヴェルニー印象派美術館で開催されている「印象派と海(L’Impressionnisme et la mer)」展の展示作品より
ギュスターヴ・クールベ《波》1870年頃
Gustave Courbet (1819-1877) La Vague, vers 1870
Orléans, musée des Beaux-Arts, 314 © 2023 Musée des Beaux-Arts, Orléans
ジヴェルニー印象派美術館で開催されている「印象派と海(L’Impressionnisme et la mer)」展の展示作品より

ノルマンディー特有の光は、画家たちに多くのインスピレーションを与えてきた。また写実主義の画家であるギュスターヴ・クールベやモネに風景画を指南したウジェーヌ・ブーダンら多くの画家がノルマンディーの海岸線をモチーフに絵を描いており、それらの作品は、多くの印象派の画家たちにも影響を与えている。そして印象派の名前の由来ともなった、モネの《印象、日の出》のモチーフも、ル・アーヴルの港が舞台である。これらの歴史から、今回の記念すべき年に相応しいテーマの企画展として、「印象派と海」展が開催された。

ウジェーヌ・ブーダン《トゥルーヴィルの浜辺》1867年
Eugène Boudin (1824-1898) La Plage de Trouville, 1867
Paris, musée d'Orsay © RMN-Grand Palais (musée d’Orsay) / Franck Raux
ジヴェルニー印象派美術館で開催されている「印象派と海(L’Impressionnisme et la mer)」展での展示作品より
ウジェーヌ・ブーダン《トゥルーヴィルの浜辺》1867年
Eugène Boudin (1824-1898) La Plage de Trouville, 1867
Paris, musée d'Orsay © RMN-Grand Palais (musée d’Orsay) / Franck Raux
ジヴェルニー印象派美術館で開催されている「印象派と海(L’Impressionnisme et la mer)」展での展示作品より

本展では、「光」「干潮」「海辺のリゾート」「ブルターニュ」など、海に関連したテーマに沿った展示構成となっている、印象派の画家たちがどのように光を表現しようとしたのか、また鉄道の登場やブルジョワジーの増加によって海辺に生まれたリゾート風景という新しいモチーフに、画家たちがどう取り組んだのかを知ることができる。

ジヴェルニー印象派美術館
Musée des Impressionnismes, Giverny © Juliette Becquart Crédit photo ; Juliette Becquart
ジヴェルニー印象派美術館
Musée des Impressionnismes, Giverny © Juliette Becquart Crédit photo ; Juliette Becquart
ジヴェルニー印象派美術館「印象派と海」展
会期:2024年3月29日~6月30日

Exposition au musée
L’Impressionnisme et la mer
Du 29 mars au 30 juin

ジヴェルニー印象派美術館 Musée des impressionnismes Giverny
99 Rue Claude Monet 27620 Giverny
https://www.mdig.fr/

「デイヴィッド・ホックニー・ノルマンディズム」
デイヴィッド・ホックニーの特別展も見逃せない、ルーアン美術館

デイヴィッド・ホックニー《池に吹く風》2023年
David Hockney 
デイヴィッド・ホックニー《池に吹く風》2023年
David Hockney "Wind on the Pond" 2023
© David Hockney Photo Credit: Jonathan Wilkinson

セーヌ川の交易によって早くから栄えたルーアンは、今でもノルマンディー地方の主要都市のひとつとして知られている。クロード・モネがルーアン大聖堂の連作を描いた(詳細は【Vol.3】にて)ほか、カミーユ・コローやウィリアム・ターナー、ポール・ゴーギャンなどもルーアンの景色を描いている。

そんな画家たちに愛されたルーアンの街にあるのが、1700年代の終わり、フランス国家が啓蒙のために各地に作った公立美術館のひとつ、ルーアン美術館である。同美術館には15世紀から現在までの幅広いコレクションが揃っており、また印象派のパトロンでもありコレクターだったフランソワ・ドポーのコレクションをはじめとした、フランス有数の印象派の絵画を多く所蔵していることでも知られている。

ルーアン美術館(美術館の前の野外展示は、アレクサンダー・カルダーの彫刻作品)
Sculpture de Calder devant le Musée des Beaux-Arts de Rouen, Rouen © Coraline et Léo	Crédit photo ; Coraline et Léo
ルーアン美術館(美術館の前の野外展示は、アレクサンダー・カルダーの彫刻作品)
Sculpture de Calder devant le Musée des Beaux-Arts de Rouen, Rouen © Coraline et Léo Crédit photo ; Coraline et Léo

そして、ルーアン美術館では現在、「ノルマンディー印象派フェスティバル」の一貫として、2023年に 東京都現代美術館でも個展が開催された デイヴィッド・ホックニーの企画展「デイヴィッド・ホックニー・ノルマンディズム」が2024年9月22日まで開催されている。

ノルマンディーにて制作中のデイヴィッド・ホックニー 2023年6月
David Hockney painting, Normandy, June 2023
© David Hockney Photo credit: JP Gonçalves de Lima
ノルマンディーにて制作中のデイヴィッド・ホックニー 2023年6月
David Hockney painting, Normandy, June 2023
© David Hockney Photo credit: JP Gonçalves de Lima

1937年イギリス生まれのの画家であるデイヴィッド・ホックニーは、ロンドンの王立美術学校で学んだのち、1964年にロサンゼルスに移住し、長年画家として世界的な活躍を続けた。2019年には、フランス・ノルマンディー地方に拠点を移し、現在も精力的に新作を発表し続けている。現在開催中の企画展「デイヴィッド・ホックニー・ノルマンディズム」では、ホックニーが描いたノルマンディーの風景画が、クロード・モネの絵画と並んで展示されており、この貴重な展示風景は、この機会にしか見ることができない。アクリルで描いた作品の他、「Moon Room」という展示室にはiPad で描かれたノルマンディーの夜の風景が並んでいる。

デイヴィッド・ホックニー《2020年9月10日》2020年
David Hockney 10th September 2020
iPad Painting © David Hockney
デイヴィッド・ホックニー《2020年9月10日》2020年
David Hockney 10th September 2020
iPad Painting © David Hockney
デイヴィッド・ホックニー《2020年11月26日 No.2》2020年
David Hockney 26th November 2020, No. 2
iPad Painting © David Hockney
デイヴィッド・ホックニー《2020年11月26日 No.2》2020年
David Hockney 26th November 2020, No. 2
iPad Painting © David Hockney

現代において世界的に活躍を続ける画家デイヴィッド・ホックニーと、150周年を迎える印象派の画家による共演を、ぜひこの機会に楽しんでみてはいかがだろうか。

ルーアン美術館「デイヴィッド・ホックニー・ノルマンディズム」展
2024年3月22日~9月22日
Exposition au musée
DAVID HOCKNEY NORMANDISM
Du 22 mars au 22 septembre 2024

ルーアン美術館 Musée des Beaux-Arts de Rouen
Esplanade Marcel-Duchamp 76000 Rouen, France
https://mbarouen.fr/en

「印象、日の出」のモデルとなった港の前に建つ、マルロー美術館

マルロー美術館 ノルマンディー地方観光局提供(ノルマンディー観光局に取り寄せ中・仮画像)
マルロー美術館 ノルマンディー地方観光局提供(ノルマンディー観光局に取り寄せ中・仮画像)

最後にご紹介するのは、大西洋を望む港湾都市ル・アーヴルにあるマルロー美術館である。第二次世界大戦でたいへんな被害を受けたこの街は、戦後にコンクリートの父と呼ばれているオーギュスト・ペレにより再建された非常に近代的な街並みが広がっており、再建の優れた一例として、同館は2005年に世界遺産にも登録されている。

マルロー美術館(ル・アーヴル) 館内
le Havre musée MuMa © Clara Ferrand Crédit photo ; Clara Ferrand
マルロー美術館(ル・アーヴル) 館内
le Havre musée MuMa © Clara Ferrand Crédit photo ; Clara Ferrand

マルロー美術館は元々「ル・アーヴル美術館」として親しまれていたが、戦争によって破壊されている。1961年に作家であり文化相も勤めていたアンドレ・マルローが、戦争の傷跡が残る街の再建のために、文化センターを兼ねた美術館のオープンを決定した。誰もが芸術に親しみやすい空間にするために、美術館は非常に明るく開放的な造りで、ル・アーヴルの港を眺めることができる立地も印象的だ。

マルロー美術館(ル・アーヴル) 館内 展示風景より
マルロー美術館(ル・アーヴル) 館内 展示風景より

展示室に入ると、前話でもご紹介した、モネに風景画を指南したオーギュスト・ブーダンの「空」をモチーフにした作品の数々 に圧倒される。素朴でありながら今もなお鮮やかさを放っているブーダンの作風は、明るく穏やかな展示室の雰囲気と見事に調和している。

マルロー美術館は、印象派の絵画コレクションでは、パリのオルセー美術館に次ぐ充実ぶりである。同じく印象派コレクションを豊富に有するルーアン美術館、そしてモネにゆかりの深いジヴェルニー印象派美術館とともに、ぜひ訪れてほしい。

マルロー美術館 Musée d'art moderne André Malraux
2 Bd Clemenceau, 76600 Le Havre , France
http://www.muma-lehavre.fr

現在、世界的に知られ、とくに日本でも広く愛されている「印象派」。
その誕生の歴史を知ることのできる、パリのオルセー美術館での特別展やVRのイベントをご紹介した第1話【Vol.1】、そして、ゴッホが人生最後を過ごした地であるオーヴェル=シュル=オワーズ、印象派のパトロン・カイユボットについて、印象派の島シャトゥなどをご紹介した第2話【Vol.2】、また、印象派の創始者として知られるクロード・モネを中心にご紹介した第3話【Vol.3】、そして最終話となる今回の第4話では、ノルマンディー地方で開催されている「印象派フェスティバル」において開催中の3つの美術館をご紹介した。

印象派150周年である今年は、印象派についてあらためて深く知ることのできる様々な充実したイベントが開催されている。印象派と縁のある各地を訪れて、素晴らしい芸術作品の数々に出会い、印象派の魅力を再発見することのできる「印象派を巡る旅」を、ぜひお薦めしたい。

※今回、記事でご紹介した以外にも、たくさんのイベントが開催されているので、詳細は下記の各サイトや「ようこそ 印象派の宴へ 2024年 印象派150周年」(フランス観光開発機構 Atout France) のサイトも参照いただきたい。

協力:
フランス観光開発機構 Atout France:https://www.france.fr/ja
ノルマンディー地方観光局 Normandy Tourism:https://en.normandie-tourisme.fr/
パリ地方観光局  Visit Paris Region:https://www.visitparisregion.com/en

参考文献:
木村泰二「印象派という革命」、集英社、2012
吉川節子「印象派の誕生」、中央公論新社、2010

FEATURE一覧に戻るアート&旅 一覧に戻る

FEATURE一覧に戻るアート&旅 一覧に戻る