特別展「Colorful JAPAN ―幕末 ・ 明治手彩色写真への旅」
神戸市立博物館|兵庫県
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人工着色料の怪しい魅力
雨の日曜日、神戸まつりのサンバカーニバルの大混雑と通行規制を四苦八苦してかいくぐり、やっとの思いで市立博物館へと到着した。
見に来たのは「Colorful Japan」なる展覧会。幕末から明治期の手彩色写真を紹介する特別展だ。
手彩色写真って初めて見る。要は白黒写真に人が手で色を塗ってカラー写真にするというもの。
21世紀の現在では画像解析によってそれが可能になっているが、人の手で彩色するというアナログの極致の技が見れるのは何とも楽しみだ。
会場は市博の2階企画展示室のみで、客は少なく集中して見ることができた。
展示の仕方で良かったのはガラスケースと作品の距離が近かったこと。これは非常にありがたい。
前回のここのコレクション企画展で古地図をやってたのを見たが、正面ガラスと作品との距離が離れすぎていて地名なんかが全く読めなかった。
これじゃ望遠鏡持参する客は増えるはずだ。当館に限らず、小道具使わずともちゃんと見える展示をぜひともお願いしたい。
今回の写真は大型展示品がないぶん数が多く、しかもその出来というか写りというか、もととなる白黒写真の現像印画が極めて美しいのにまず感心する。
幕末から明治初期の写真というと、坂本龍馬や高杉晋作の画質が粗い写真を思い浮かべてしまう。
が、ここに出てきてる写真にはどれ一つとしてピンボケや粗悪な画像はない。人も風景もめちゃくちゃ綺麗に撮れているのがとにかく素晴らしい。
これに色が施されるわけだから、その出来上がりが悪かろうはずがない。
出展されている写真は、神戸や横浜の写真館が撮ったもので、そこに専属でいた色付け師(正式名称は絵付師)が着色していたんだそう。
会場には色付け師の写真や使っていた絵具の展示もあった。
こういう彩色写真は輸出用や訪日外国人のお土産になっていたそうで、見ればいかにもな感はある。
フジヤマ、ゲイシャがその最たる被写体で、お土産写真が日本のイメージを決めたのかとも思いたくなる。
しかし、この芸者さんや花魁さんがめちゃくちゃ美人なのだ。《太夫》のモデルさん、今でも十分にNo1になれます。
なんて書いたら、大吉原展のアンチ派から糾弾されそうだが、高橋由一の花魁画より断然こっちが好き。
色付けは着物や髪飾りなんかを集中的にやっていて、雑さは皆無。細かい柄や模様、ヒダの陰影もきっちり仕事が為されていて、日本人の器用さとか丁寧さが発揮される格好の素材であり舞台だったといえる。
欲を言えば、皮膚の色や背景にもこだわって彩色していたら、もっと完璧なカラー写真になったかもしれない。
人物写真はやんごとなきかたから庶民まで、ボーダーレスで登場する。
女性のことばかりで恐縮だが、一般人の着物着た女性のスッピンの顔立ちが、今と変わらないのが新鮮な驚きだ。
日本髪結うと古風に感じるところ、それを感じさせない素のビジュアルが本当に良い。
一方で、昭憲皇太后はお顔に若干の修正が加わってるかな? 御真影ですからさぞかし気を使われたんだと思います。
日本各地の風景写真もいい。写真館のあった神戸や横浜の港、町並みの風景は最も身近な撮影場所だったに違いない。
BUNDという言葉が写真タイトルに出てきて、バンドは横浜にもあったんだと思った。ただ、BUNDは外灘と訳してほしかった。今でも上海にあるしね。
他には日光、鎌倉大仏、芝増上寺、奈良、宮島などの定番観光地で日本を紹介。
泉岳寺の四十七士の墓の写真もあったりして、これは日本人向けなのかな? 47Revengersのお話、外人さんにもウケたのなら嬉しいけど(笑)
全体的な手彩色写真の印象は、物資が不足してた時代に絵ハガキ作ったらこうなるのかなという感じ。
今のカラー写真とは比べるべくもないのだけど、何かこう人工的な素朴感というか、着色料で色を付けた食品みたいな、いかがわしさを伴う怪しさはある。
かといって、毒々しいことは全くないし、逆にそれが魅力となって幕末~明治にタイムトリップしたかのような懐かしさやレトロ感を醸し出している。
その昔、チクロという人工甘味料があって、駄菓子屋で売ってるお菓子の甘さを一手に引き受けていた。
しかし発ガン性があるということで使用禁止になって、それ以後の駄菓子の甘さは一気に低下してしまった。
チクロの発ガン性は濡れ衣だったことはその後証明されたのだが、再び使われることはなかった。
彩色写真を見ながら、なぜか遠い日のチクロの甘さを思い出した。