ART BLOGS

アートブログ

君があまりにも綺麗すぎて~福田コレクションの美人画~@嵯峨嵐山文華館×福田美術館

大林千萬樹《四季美人図》大正-昭和時代【通期】

桜の季節が過ぎ、新緑輝く嵐山は、外国人観光客でごった返していました。そこから一歩は入れば、艶やかにもしっぽりも感じる美人画の展覧会が嵯峨嵐山文華館と福田美術館共催で始まっています。展示作品すべてが福田美術館の所蔵品です。福田美術館は、最近も新発見された若冲作品を新所蔵してニュースになりました。江戸絵画コレクションと共に「美人画」もキイコレクションとなっているそうです。福田美術館での福田コレクションとして初公開作品多数を含む華やかな展覧会となっています。

 

鏑木清方や伊東深水など撮影禁止マークのある作品を除いては撮影OKです。福田美術館では、今回も無料音声ガイドをスマホで聴く事が出来ます。注目すべき作品のキャプションにある一文に成程と思い、詳しい説明も添えられています。


第1会場:嵯峨嵐山文華館:通期33点、前期10点/後期10点、合計53点

※うち福田コレクションとしての初公開作品は12点です。

近世から始まる美人画のルーツを辿る-浮世絵美人の変遷

「美人画」という言葉は、近代になってから出来た言葉です。美人画の始まりは、風俗画の中の一つのモチーフであった女性像を寛文の頃から掛軸にして鑑賞する風習が始まりました。描かれる対象は、遊女や同時代に生きる女性たちです。美人画最初期の作品である《二美人と念仏法師図》(作者不詳)念仏を唱える僧侶の顔にご注目!踊りながら誘惑してくる遊女に視線がいき、思わずニヤリとする煩悩だらけのお坊さんです。


展示風景。 壁面一面に肉筆浮世絵が並びます。

肉筆の浮世絵が一面に並びます。まずは丁寧に描かれた着物や髪形にご注目下さい。季節感や当時の流行が描かれています。激しく雪の降る場面を描いた 東燕斎寛志《雪中美人図》雪の日なのに着物の柄は御簾に蔦、帯は流水に山吹で晩春の頃の絵柄で、当時もお洒落は季節を先取りする、だったようです。勝川春章筆《桜下遊女之図》旧蔵は鏑木清方で、江戸情緒を愛した清方はこのような浮世絵を参考にしていたのでしょう。

江戸時代の版木ではありませんが、1点ものの肉筆ではなく大量生産できる多色木版画(⾕⼝⾹嶠「⽩鷺の精」)の制作工程が解説パネルと共に7枚の版木とそれぞれの工程の摺りが展示されています。版元があって、絵師、彫師、摺師三者分業で出来上がっています。


左から:北野恒富《阿波踊》昭和時代【前期】、《美人》大正・昭和時代【通期】

近代の美人画でどのようなところが浮世絵から影響を受けているのか

1. 描くモチーフが浮世絵から影響を受けている。

2. 「夜目、遠目、笠の内」に美意識を求める。

3. モチーフ、構図、画家自身が浮世絵の系譜に居る事、例えば清方は国芳の弟子の弟子、深水は清方の弟子

北野恒富筆《美人》は、月岡芳年門下の稲野年恒に入門してその系譜にあり、夜にハイカラな灯籠に火を入れる女性を描き「夜目、遠目、笠の内」の要素を持つ。近代の美人画家たちは、過去の技術を踏襲しながら自分のものとして当世風の美人画を描きました。

展示室後半は、古典文学や謡や日本舞踊などに主題を得た作品が展示されています。


展示風景:松園の美人画が並んでいます。

第二会場 福田美術館:通期44点、前期14点/後期16点、合計74点

※うち福田コレクションとしての初公開作品は、31点です。

時代を彩った次世代の美人画-「東の清方、西の松園」の競演

第一展示室の最初の壁面から次の壁面の中ほどまでが、松園さんで、その続きに清方の作品が並び、その先には大阪画壇の作品が展示されています。気品漂う女性ならではの松園の美人画と浮世絵の流れを汲む江戸情緒を感じる男性清方が描く美人画です。関西ではやっぱり松園さんと松園の美人画の所蔵は多いが、清方作品をこれほど所蔵する関西の美術館は福田美術館さんぐらいでしょう。松園の《長夜》は第1回文展で3等を受賞した作品です。当時活躍していた女性画家を「三都の三園」と呼ばれていましたが、その一人池田焦園の《もの詣で》も第1回文展出展作で、約120年ぶりに同じ展示室に展示されています。


上村松園《人形遣之図》明治~大正時代【通期】

松園《長夜》はよく知られた作品ですので、《人形遣之図》に惹かれて、こちらの画像を掲載しました。色合いも右肩上がりの構図も良いですね。近松の浄瑠璃『冥途の飛脚』の名場面、解説の解釈と違って私は人形を操る二人も恋仲なのかと見てしまいました。歌麿の大判錦絵「音曲恋の操 梅川忠兵衛」に想を得て松園は描きました。


菊池啓月《浦島》1915年【前期】

左手の壁面にはちょっと珍しい作品も展示されています。菊池啓月が大正期にアールヌーボー風に描いた《浦島》不思議なけだるさも漂う作品です。初公開の清方門下の大林千萬樹《四季美人図》【通期】桃山から江戸の風俗で四季の美人を描き分け、それは一日をも表しています。メインヴィジュアルにと迷いに迷った、山川秀峰《振袖物語》【前期】左の刀を差し赤い着物を羽織るのは、若い娘を焦がれ死にさせて「明暦の大火」を招いたお小姓です。つまり美人でなく美少年です。このお小姓に魅入られたのは私だけではなさそうですね。

 

第二展示室は、清方松園に続く世代の作品です。それまでの床に飾って鑑賞する美人画から官展が画家たちの発表の場となりました。東京、京都、大阪と地域ごとに展示されています。

深水の描く女性は、ダイエットとは無縁、むちっとして色香が漂います。


梥本一洋《朝凪》1933年【通期】

梥本一洋はこんな作品も描いていたのですね。『よきかな源氏物語』@嵯峨嵐山文華館で展示されていたのは《夕顔》でしたのに、今回は洋装のモダンな女性像です。瀬戸内海を航行するフェリーと思われる船上だそうです。デッキで洒落た椅子に寛ぐ”イマドキ”のお洒落な女性、白いワンピースは襟がストライプで帽子もお洒落。煙草を手にするもう一人の女性は、ヒールに白い靴下をはき、スカートの裾は透けて、袖先も別布になっていて、モデルのドレスは誰チョイスだったのでしょう。


左から:木谷千種《美人図》大正-昭和時代【通期】、伊藤成錦《銀扇》大正-昭和時代【通期】、島成園《舞妓》1921年【前期】

三園のもう一人である島成園、成園と一緒に大阪画壇で活躍した女性画家の木谷千種です。伊藤成錦は、成園門下生で号に成園の「成」の字が付いています。


左から:中村貞以《浄韻》1954年、《少女と犬》1968年、《三味線》1948年、《蛇皮線》1933年【通期】

第三展示室 中村貞以(1900-1982)の美人画特集です。大正から昭和にかけて活躍した大阪の美人画家です。幼い頃に火傷で指が不自由となり両手で筆を挟む「合掌描き」で絵や書を描きました。「合掌描き」は幼き頃よりの使い慣れた方法で、ハンディキャップは微塵も感じられません。昨年大阪中之島美術館で開催された「大阪の日本画」展では、もっとデフォルメされた作品も展示され覚えておられる方も多いでしょう。彼と結婚して家庭に入った高橋成薇を師の島成園が惜しんだのでした。

 

見終えて、お気に入りの”推し”の美人画は誰の作品でしたでしょうか。

最後に「美人画投票」があります。関西の人はみんな大好き松園さんもええけど、松村梅叟の巫女さん姿も捨てがたく、妖しいお小姓の少年も・・・さてあなたの推しは誰?


開催概要君があまりにも綺麗すぎて ~福田コレクションの美人画~

会期:2024年4月19日(金)~2024年 7月1日(月)

前期:4月19日(金)~5月27日(月)/後期:5月29日(水)~7月1日(月)

  • 開館時間:10:00〜17:00(最終入館 16:30)
  • 休館日:5月28日(火)展示替え・6月18日(火)設備点検 ※月曜日も開館しています!
  • 開催場所:福田美術館・嵯峨嵐山文華館
  • 入館料 詳しくは⇒
  • 一般・大学生:1,500(1,400)円/高校生:900(800)円/小中学生:500(400)円
  • 障がい者と介添人1名まで:各900(800)円 ※( )内は20名以上の団体 料金 ※幼児無料
  • 嵯峨嵐山文華館との二館共通券:一般・大学生:2,300円/高校生:1,300円/小中学生: 750円
  • 障がい者と介添人1名まで:各1,300円
  • 展覧会サイト⇒

プロフィール

morinousagisan
阪神間在住。京都奈良辺りまで平日に出かけています。美術はまるで素人ですが、美術館へ出かけるのが大好きです。出かけた展覧会を出来るだけレポートしたいと思っております。
かつて関西のアートサイトに読者レポートとしてアートブログを掲載して頂いていたご縁で、展覧会担当の広報会社さんから私個人に内覧会や記者発表のご案内を頂戴し、「アートアジェンダアートブログへ投稿」という形を広報会社さんに了解頂いて、アートブログを投稿しています。アートブログは全くの素人の個人としての活動です。
通報する

この記事やコメントに問題点がありましたら、お知らせください。

こちらの機能は、会員登録(無料)後にご利用いただけます。

会員登録はこちらから
SIGN UP
ログインはこちらから
SIGN IN

※あなたの美術館鑑賞をアートアジェンダがサポートいたします。
詳しくはこちら

CLOSE

こちらの機能は、会員登録(無料)後にご利用いただけます。

会員登録はこちらから
SIGN UP
ログインはこちらから
SIGN IN

ログインせずに「いいね(THANKS!)」する場合は こちら

CLOSE
CLOSE
いいね!をクリックしたユーザー 一覧
CLOSE